発達障害の子どもを支える早期療育の大切さと年齢に合わせた効果的な支援のポイント
2025.10.27はじめに
2025年10月10日の朝日新聞に、「『大人の発達障害』遺伝的背景が違う可能性 診断年齢に差、英チーム」という記事が掲載されました
(https://www.asahi.com/articles/ASTB81PLWTB8ULLI00NM.html?ref=tw_asahi)。この記事では、イギリスのケンブリッジ大学の研究成果を紹介し、自閉スペクトラム症(ASD)の診断時期によって、その人の発達特性や発達の仕方に違いが生じる可能性を示しています。具体的には、幼少期にASDと診断された人はコミュニケーションに関連する課題を抱えやすいが、成長とともに徐々に改善されるのに対して、思春期やそれ以降にASDと診断された人は、精神的不調を抱えやすい傾向にあることを報告しています。この結果が、今後、他の研究グループでも実証され、さらに日本のASDの方々を対象とした場合にも同様の傾向があるとすると、ASDの診断の基準や、支援方法も変わっていくかもしれません。
自閉スペクトラム症における早期療育と発達段階の支援目標の重要性
自閉スペクトラム症(ASD)は、脳の発達の多様性と複雑さを反映した障害であると考えられており、診断時期や個別の発達段階によって必要な支援や介入も大きく異なることが知られています。近年の研究からは、ASDの原因には遺伝的要因と環境要因が複雑に絡み合っているとされており、このような考え方に基づいて、多様な支援を的確に行うための工夫がなされています。本コラムでは、まず早期療育がなぜ重要であるかを、脳の発達の観点から説明し、次に発達段階ごとに支援の目標や方法が変わる理由と、診断名だけに左右されずに、環境と行動の相互作用の観点から情報収集を行うことの重要性について説明していきます。
早期療育の重要性:脳の可塑性と発達の土台づくり
幼少期、とりわけ0歳から6歳頃は脳の神経回路が柔軟に形成される「可塑性」、すなわち脳が経験や学習、損傷に対応して、脳の構造や機能を柔軟に変化させる能力の高い時期です。この時期に受ける適切な刺激や支援はその後の発達に多大な影響を及ぼします。発達障害児に対する早期療育は、特に五感を通じた感覚統合やコミュニケーション能力の向上を促し、後の社会生活や学習にスムーズに適応するための土台を築く役割を果たします。
具体的には、言語療法や作業療法、認知行動療法、応用行動分析学などに基づいた、多様な専門的プログラムによって個々の特性に応じた介入が有効であると考えられています。こうした早期療育は、発達の遅れや偏りが固定化される前に問題点に働きかけるため、その効果が高いとされており、コミュニケーション能力の向上や自己肯定感の育成など、多面的な発達に良い影響をもたらすことが多数の研究で裏付けられています。
また、早期療育は単に子どもの能力を伸ばすだけでなく、保護者や周囲の人々に対して子どもの理解や適切な関わり方を促すという重要な役割も持ちます。支援者と家族が共に学び合いながら子どもの成長を支える環境は、療育効果をさらに高める要因となっています。
発達段階に応じた支援目標の違いと環境・行動の相互作用のアセスメント
ASDの特性や支援ニーズは年齢や発達段階によって大きく異なり、診断名だけでは十分に対応できない多様性を持っています。乳幼児期には基本的なコミュニケーションや感覚の調整が中心となり、就学期以降は学習面や社会性、自己管理能力の支援が強調されます。青年期や成人期になると、自己の特性理解や環境調整、生活スキルの獲得支援が重要な課題となってきます。
そのため、単に診断名で一律の支援を行うのではなく、子どもの現在の行動パターン、環境との相互作用の状態について詳しく情報収集し、個別の発達記録やニーズに基づいて支援目標を設定することが極めて重要です。これには本人の強みや困難さ、家族や学校、地域の環境状況の把握も含まれます。
たとえばある子どもが特定の状況で困難を示す場合、その原因が環境要因にあるのか、行動面の適応課題にあるのか、あるいはその両方かを見極める必要があります。専門家の視点だけでなく、保護者や教育関係者、時には本人の自己理解も支援計画に反映させることが効果的です。
環境調整と行動支援のバランスが鍵
ASD支援の現場では、その子どもの特性に対する理解を深めつつ、環境の調整や行動支援を組み合わせることが成果を左右します。環境調整とは、物理的空間の配慮から、社会的関係性の工夫、スケジュール管理やコミュニケーション支援ツールの導入まで幅広く含まれます。
行動支援は、子どもの苦手な状況を軽減し、できることを増やすための具体的な介入です。これらは相互に補完し合い、子どもが自己肯定感を保ちながら成長できる基盤を作ります。診断名は支援の指針の一つに過ぎず、個々の行動と環境のダイナミクスを繊細に評価する態度が求められます。
まとめ
冒頭にご紹介した記事は、あくまで現段階での情報であり、今後、さまざまな機関によって検証が行われるでしょう。そもそも、ASDを含む発達障害は、一人ひとり発達の仕方が異なり、診断年齢や時期によってその特性や支援の必要性も多様であることは明らかです。このような視点を踏まえたうえで、早期に適切な療育を受けることによって、発達の土台を築いていくことが可能であると期待できます。また、年齢や成長段階に応じて、コミュニケーションから学習、社会性、生活スキルへの支援へと目標を変えていくことが効果的と考えられます。診断名にとらわれず、子どもの行動や環境との関わりを丁寧に理解し、本人や家族の強みと課題に合わせて支援計画を立てることが大切です。環境調整と行動支援をバランス良く組み合わせ、子どもが自己肯定感を持って成長できる支援が求められるでしょう。


