
知的障害(知的能力障害)とは?特徴や症状、診断の種類などをまとめます。
2025.04.04- 知的障害とは
- 知的障害の原因・症状
- 知的障害の定義と診断
- 特別支援学校の各教科の教え方
- 周辺の障害理解
知的障害とは
知的障害、精神遅滞とも呼ばれている知的能力障害とは、知的機能(記憶、推論、判断、言語理解、問題解決など)の障害がおおむね18歳までにあらわれ、日常生活に支障が生じ、何らかの特別な支援を必要とする状態を指します。全般的な知的の遅れが特徴であるため、抱えうる問題も広い範囲に及んでいます。
知的能力や適応機能(日常生活能力、社会生活能力、社会的適応性)に応じて判断され、知能指数によって軽度〜最重度に分類されます。
(※本コラムでは引用を除き、「知的障害」と表記させていただきます。)
知的障害があるお子さんへの支援方法については、以下の記事をご覧ください。
知的障害の原因・症状
知的能力障害の原因としては、出生前要因、周産期要因、出生後要因から考えられています。また、脳の様々な中枢神経系疾患が原因とされています。
・出生前要因
内的原因として、遺伝子や染色体異常があげられます。外的な原因としては、母体の感染症、アルコールや薬物等の摂取があります。
・周産期要因
周産期には、低酸素症や頭蓋内出血、早産等が原因としてあげられます。
・出生後要因
出生後には、感染症、頭部外傷、不適切な養育環境や虐待などが原因となる場合もあります。
幼少期にみられる知的障害の症状は、以下の4つの段階に分けることができます。
・最重度(概ねIQ20以下)
目が合わない、笑わない、首が座らないなど、知的発達と運動発達に明らかな遅れがみられるといわれています。
・重度(概ねIQ21~35)
単純な会話や身振りによるコミュニケーションは可能ですが、食事や身支度などの日常生活の場面で介助が必要になります。
・中度(概ねIQ36~50)
言葉の遅れが3歳児健診で発見されることがあります。また、これらの症状や様子は乳幼児健診で発見されることが多いとされています。
・軽度(概ねIQ51~70)
就学後に対人関係や学習面でのつまずきや困難さがみられるようになってから発見されることがあります。
知的障害の定義と診断
診断の基準には、アメリカ精神医学会の『精神疾患の分類と診断の手引(DSM-5®)』と世界保健機関WHOが定める『疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)』があります。他に、アメリカ知的・発達障害学会や文部科学省、厚生労働省が定めた定義があります。それぞれの定義により、障害名の表記が多少異なります。
①精神疾患の分類と診断の手引(DSM-5®)
DSM-5によると、「知的能力障害(知的発達症)は、発達期に発症し、概念的、社会的、および実用的な領域における知的機能と適応機能両面の欠陥を含む障害である」と定義されています。またDSM-5が示す、3つの基準を満たしている場合に知的能力障害の判断がされます。
~DSM-5が示す3つの基準~
A)臨床的評価および個別化、標準化された知能検査によって確かめられる、論理的思考、問題解決、計画、抽象的思考、判断、学校での学習、および経験からの学習など、知的機能の欠陥。
B)個人の自立や社会的責任において発達的および社会文化的な水準を満たすことができなくなるという適応機能の欠陥。継続的な支援がなければ、適応上の欠陥は、家庭、学校、職場、及び地域社会といった多岐にわたる環境において、コミュニケーション、社会参加、および自立した生活といった複数の日常生活活動における機能を限定する。
C)知的および適応の欠陥は、発達期の間に発症する。
②疾病及び関連保健問題の国際統計分類(ICD-10)
ICD-10では、知的障害は精神遅滞とも表記されており、「発達期に明らかになる全体的な知能水準に寄与する能力、たとえば認知、言語、運動および社会的能力の障害によって特徴づけられる」としています。
※ICD-10の改訂版であるICD-11は、2022年に発効しましたが、日本での導入は現在調整中です。本記事ではICD-10の内容を記載しています。
③アメリカ知的・発達障害学会
「知的障害は知的機能と適応行動(概念的、社会的および実用的な適応スキルによって表される)の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害のことである。この能力障害は18歳までに生じる」とされています。
④厚生労働省
「知的機能の障害が発達期(おおむね18歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、何らかの特別な援助を必要とする状態にあるもの」とされています。
診断における評価方法
知的能力障害においては、知的機能と生活能力の2つの側面から捉えるために、知能検査、適応能力検査尺度などが活用されています。これらの結果に基づいて障害の判断と程度が評価されます。

特別支援学校の各教科の教え方
①知的障害の学習上の理解と特性
知的障害をもつ子どもたちが、日常生活の中で困難に直面しやすい場面は、複数みられます。一般には認知や言語にも困難さがみられるため、他者との意思の交換、安全、仕事、余暇利用においても適応能力が同年齢の児童生徒に求められるほどまでに至っていないことがあります。そのため、特別な支援と配慮が必要な状態とされます。
・成功体験の得られにくさ
知的障害をもつ子どもたちは獲得した知識や技能を応用する力が弱いことも多く、知識や技術が実際の場で活かされにくいこと、やり始めてもうまくいかない場合があること、などがあります。その他に、運動が苦手であるなど、日常の体験からも自信をもってやり遂げる体験が得られにくいことなどから積極的に取り組む意欲が高まらない点などがあります。
②自立と社会参加に向けた教育の充実
生活の自立を目指す観点から、各教科の目標および内容も、通常教育のように系統的な学問体系につながるものとしてではなく、子どもの発達段階および生活のありようを踏まえて、実生活に活かせるような教育プログラムを立てるように設定されています。
<中学部の数学の例>
・目 標
日常生活に必要な数量や図形などに関する初歩的な事柄についての理解を深め、それらを扱う能力と態度を育てる。
・内 容
(1)日常生活における初歩的な数量の処理や計算をする。
(2)長さ・重さなどの単位が分かり、測定する。
(3)図形の特徴や図表の内容を理解し、作成する。
(4)金銭や時計・暦などの使い方に慣れる。
・特別支援学校における学習指導での工夫
知的障害のある児童に対する教育を行う特別支援学校においては、各教科等をあわせて指導を行う場合と、各教科等をあわせないで指導を行う場合があります。学校というと科目の勉強、学習が重視されそうですが、知的障害をもつ人への教育は、生活の自立に必要な内容の習得を図ることが重要であると強調されています。
各教科をあわせた指導や、自立活動などと組み合わせて教育と実生活反映への充実を図っています。
例)算数の時間で「買い物の仕方」を学ぶ など
「計算ができた」だけでなく、実生活にどのように結びついているかが重要です。
周辺の障害理解
知的障害と同様に発達期に長期支援が必要とされる障害は他にも多くあります。知的障害と合わせもつ障害として、発達障害の一つであるASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如・多動症)などがあります。知的障害は、社会生活や参加の促進、支援が必要とされます。また、幼児期からの環境改善なども含めて支援を考えることもとても大切だと考えられています。
<参考・引用文献>
公益財団法人 日本障害者リハビリテーション協会 情報センター(2013)ノーマライゼーション障害者の福祉https://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/prdl/jsrd/norma/n388/n388005.html
厚生労働省 知的障害児(者)基礎調査:調査の結果
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/101-1c.html 参照2025.2.27
文部科学省(2016)知的障害のある児童生徒のための各教科について
高橋三郎・大野裕(監訳)(2014)『DSM-5® 精神疾患の分類と診断の手引』 医学書院
全国手をつなぐ育成会連合会(2020) 保健医療従事者のための知的障害のある妊産婦さんへの対応ハンドブック
http://zen-iku.jp/wp-content/uploads/2020/12/201228handbook.pdf