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特集

知的障害(精神遅滞)があるお子さんへの支援方法とは?特徴や、現れやすい問題行動についても解説。

2022.05.09
  • 知的障害(精神遅滞)の特徴
  • 知的障害(精神遅滞)の特徴で問題行動ととられやすい行動
  • 知的障害(精神遅滞)のお子さんに対する支援方法
  • 子どもに対する直接的な働きかけ
  • 子どもの周囲を介した間接的な働きかけ
  • まとめ

 (知的障害について原因、症状、支援など網羅的に解説しているこちらもあわせてご参照ください )

 

知的障害(精神遅滞)の特徴

 知的障害(精神遅滞)とは、知的機能の障害がおおむね18歳までにあらわれ、日常生活に支障が生じ、何らかの特別な支援を必要とする状態を指します。

 

ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)、LD(学習障害)などは発達障害ですが、知的障害は発達障害には含まれません。ただし、ADHDやASDの方で、知的障害を併せ持つ方もいます。知的障害は全般的に能力の落ち込みが認められるという特徴があるため、おおよその能力は平均並みだが特定の分野のみに著しい苦手さを示すという特徴のあるLDと併せ持つことは、通常はありません。

 

 知的機能の水準は、知能指数(IQ)を基準に測定されることが一般的です。IQはWISCやWAISといったウェクスラー式知能検査や田中ビネー知能検査などの、知能検査で算出されることが多いでしょう。(知能検査について、詳しくはこちらで紹介しています。)

 

IQはおおよそ80から120の範囲に70%程度の人々が、70から130の範囲に95%の人々が含まれると推定されており、値が大きいほど知的に高いことを意味します。

 

一方、知的障害は軽度(IQ50以上70未満)、中等度(IQ35以上50未満)、重度(IQ20以上35未満)、最重度(IQ20未満)の4段階に分類されています。

 

ただしこのIQの数値はあくまで目安であり、全般的な生活能力を考慮しながら、診断等が行われます。さまざまな支援サービスを利用する際の確認に用いられる障害者手帳の1つ、療育手帳(自治体によって名称や交付基準が異なり、東京都では愛の手帳と呼ばれています)は知的障害のある方を対象とされています。療育手帳には、重度「A」と重度以外の中軽度「B」があります。

 

知的障害の特徴で問題行動ととられやすい行動

 知的障害は、全般的な知的な遅れが特徴であるため、抱えうる問題も広い範囲に及ぶ可能性があります。

 

特に学習能力に関しては、読字、書字、算数だけではなく、運動面での遅れが顕著に認められる場合もあります。なかには、発語の遅れがあり、言語でのコミュニケーションを十分にとることができないお子さんもいるでしょう。

 

生活面においても、さまざまな行動を身につけたり、複数の行動レパートリーのなかから適切なものを選択したりすることが困難な場合も少なくありません。そのため、身支度などの毎日行う行動でも、適切な順番で行うことができなかったり、優先順位をつけて取り組むことが苦手だったりするお子さんもいます。さらには、突発的な事態、すなわち、「急に~しなければならなくなった」「いつも行っていた~ができなくなった」というような状況で臨機応変に振舞うことは難しく、一般の方よりも不安は高まることが予測されます。

 

 このような課題を背景として、心理的な問題を抱えやすいことも指摘されています。周囲の一般的なお子さんよりも「自分はできない」と認識することで不安や劣等感を抱きやすく、抑うつなどの感情も持ちうります。また、自分の要求や欲求を適切に言語化することが困難なため、「貸して」を適切なタイミングで言うことができずに、結果的に勝手に人の物をとってしまうような状況に陥ったり、からかわれたりしたときに「やめて」が言えずに手が出てしまったりと、失敗経験を積んでしまうことも比較的多くなる場合があります。

 

このような直接的な行動が、中高生以降になると非行や犯罪と結びついてしまう可能性もあり、早期に適切な対処方法を身につけておくことが重要になります。

 

知的障害のお子さんに対する支援方法

 知的障害のあるお子さんに対しては、お子さんのできることを増やす直接的な支援と、お子さんを支援する保護者や先生、周囲の人々に関わり方を工夫していただく間接的な支援とに大別することができるでしょう。

 

  • 子どもに対する直接的な働きかけ

 直接的な支援を行う場合には、お子さんのできることの水準を見極めるところから始めて行くこととなるでしょう。

 

すでにお子さんが1人で十分にできることに対しては、たとえば家庭や学校以外の、さまざまな状況でも同じ様にできることを確認していくことになります。

 

お子さんが、保護者や先生の力、あるいはさまざまなツールを使いながらおおよそできることに対しては、1人でできることを目指しても良いですが、1人でできることにこだわり過ぎず、支援を得ながらスムーズにできるようになったり、素早くたくさんの量をこなせたりすることを目指してもよいでしょう。

 

そして、現時点ではあまりできないことを、少しでもできるようチャレンジしていくことが、行動のレパートリーを増やすことに繋がります。このときには、チャレンジする課題だけだと、うまく行かなくてやる気がなくなったり、落ち込んでしまったりすることにも繋がる可能性があるので、すでに自信をもって取り組むことができる課題と、バランスよく設定していきましょう。今すぐにできなければいけないことと、将来的にできてほしいことを分けて整理し、少し長い視点で、支援の計画を立ててみることをお勧めします。

 

  • 子どもの周囲を介した間接的な働きかけ

 間接的な支援を行う場合には、支援者間の意思や方針、目標の共有が不可欠です。定期的に情報交換や意見交換を行いながら、おおよそ同じペースで、お子さんに関わっていくことが理想的でしょう。

 

また、生活面は家庭を中心に、学習面は学校を中心に取り組むなど、支援の場所の特徴や支援者の得意なところを活かした役割分担も効果的です。全般的な遅れから、問題が生じる場面も多岐に渡ることが多いので、1人の方が全部を抱えこんでしまうことのないように、連携を図っていきましょう。

 

 また、知的障害のお子さんが抱える大きな課題として、余暇の乏しさが指摘されることもあります。楽しい活動を見つけたり、楽しい時間を共有したりすることが困難なお子さんもいますが、必ずしも笑ったり飛び跳ねたりしないからといって、つまらないわけでもありません。

 

水を触って気持ちいいと感じたり、風にあたって涼しいと感じたり、雪に触れて冷たいと感じたりするような、五感を使った生活も、お子さんの楽しみや余暇につながるヒントとなることがあります。そのため、些細なことでも、さまざまな経験をしてみることをおすすめします。

 

まとめ

 知的障害のあるお子さんの特徴と対応について紹介しました。全般的な知的の遅れが認められる分、できること、得意なこと、好きなことなど、1人1人さまざまな特徴があるはずです。

 

小さいころから、さまざまな経験を通して少しずつできることを増やし、将来に向けて1歩1歩進んでいくようなイメージで、長い目で関わっていくことが必要となるでしょう。そのため、お子さんだけではなく、支援者の方の喜びや楽しみも重視しながら、少し肩の力を抜いてゆったり関わっていくような姿勢が良いのではないかと思います。

 

小関俊祐/発達障害療育研究所アドバイザー

桜美林大学心理・教育学系准教授。 日本認知・行動療法学会公認心理師対策委員及び倫理委員、一般社団法人公認心理師の会運営委員及び教育・特別支援部会長、日本ストレスマネジメント学会常任理事・事務局長を務める。 2019年より発達障害療育研究所・スタジオそら顧問として活動。

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