ABA(応用行動分析学)とは?ABC分析、発達支援の基本方針、強化・弱化などについて解説
2025.10.13- ABA(応用行動分析学)とは?
- ABA(応用行動分析学)が取り入れられる分野
- 達支援・療育でABA(応用行動分析学)を取り入れる目的
- ABC分析
- ABA(応用行動分析学)での支援(きっかけ、結果へのアプローチ)
- 望ましい行動を増やす方法と家庭での活用例
- きっかけへのアプローチ
- 結果へのアプローチ【強化】
- 強化子のバリエーション
- 望ましくない行動を減らす方法と家庭での活用例
- きっかけへのアプローチ
- 結果へのアプローチ【弱化】
- 消去と消去バースト
- より望ましい行動を身につけるアプローチ
- 発達支援・療育の基本方針
- ABA(応用行動分析学)を実践するために
- ABA(応用行動分析学)による支援を受けられる場所
ABA(応用行動分析学)とは?
ABAは「Applied Behavioral Analysis」の略で、日本語では応用行動分析学と訳されます。<行動>に着目することで、目に見えない「心」を理解しようとする「行動分析」の考え方を、実生活で活用する領域がABAです。
ABAでは、<行動>だけではなく、行動が起きる<きっかけ>や行動の<結果>に注目することで、相手に対する理解を深めていきます。
【ABA(応用行動分析学)が取り入れられる分野】
ABAは、発達支援や療育、医療、スポーツ、教育、福祉、ビジネスなど、様々な分野で活用されています。障害の有無や年齢にかかわらず、どのような方に対しても取り入れることのできる考え方です。
【発達支援・療育でABA(応用行動分析学)を取り入れる目的】
発達支援・療育では、ABAの考え方に基づいて、行動をよく観察し、適切な環境を整えたり、適切なかかわりを持ったりすることで、結果として望ましい行動を増やし、望ましくない行動を減らしていくことを目指していきます。
<きっかけ><行動><結果>に注目することで、望ましい行動を増やすためには、どのような環境があるとよいのか、どのようなかかわりを持てたらよいのかを検討することができます。
【子どもの行動に着目するメリット】
・複数の人の間で様子の共有がしやすくなる
お子さんには、家族だけではなく、学校、習い事、療育機関の先生など、多くの人が関わりますが、その際に「最近成長してきた」というような表現だけでは、十分な情報共有ができているとはいえません。一方、「授業で毎回3回以上挙手している」など、具体的な行動で表現することで、「成長」の中身を共有することが可能になります。
・何をほめられているのかが伝わる
「成長」の中身を共有することで、お子さんの行動を具体的にほめることができます。「頑張ったね」よりは「毎回発言しようと挙手して頑張ってるね」の方が、何をほめられているのか、伝わりやすいでしょう。
【ABC分析】
ABC分析とは、<きっかけ><行動><結果>の一連の流れを理解していくことを指します。ABCは<きっかけ:Antecedent><行動:Behavior><結果:Consequence>、それぞれの頭文字を取っています。
それでは、お手伝いの場面を、ABC分析で見ていきましょう。「ちょっと手伝って」と声をかけられたときに、「お手伝いをする」と、「ありがとうと言われた」というような、「どんなときに(きっかけ)、何をしたら(行動)、どうなった(結果)」の関係性を図で示したものが以下になります(図1)。
行動には、必ず何かしらのきっかけがあります。たとえば「お母さんが料理をしているのを見つける」「洗濯が終わったことに気づく」など、子どもが自発的に行動する際にも、きっかけは存在します。
そして子どもが行動を起こし、その結果として自分にとっていいことが生じると、その行動をまたするようになると考えられています(図2)。
つまり、行動を維持するためには、何かしらのいいことが起こることが必要だという考え方です。この「いいこと」は、人によってさまざまなので、何が行動の維持に影響しているのか、見極めることが大切です。
ABA(応用行動分析学)での支援(きっかけ、結果へのアプローチ)
ABAでは、<きっかけ><行動><結果>の一連の流れで、子どもについて理解し、子どもの望ましい行動を増やしたり、望ましくない行動を減らしたりして支援をしていきます。
支援の方法として、
①行動の<きっかけ>にアプローチする
②行動の<結果>にアプローチする
の2つの観点が挙げられます。
行動の<きっかけ>にアプローチする方法とは、行動の<きっかけ>を提示したり、変えたりすることにより、望ましい行動を増やしたり、望ましくない行動を減らしたりすることを指します。
行動の<結果>にアプローチする方法とは、お子さんの行動に対し、「いいこと」を提示して望ましい行動を増やしたり、「いいこと」をなくして望ましい行動を減らしたりすることを指します。
望ましい行動を増やす方法と家庭での活用例
子どものしてほしい行動を増やしたいときの基本方針は、
①行動の「きっかけ」を提示する
②行動の「結果」に「いいこと」を提示する(=強化)
の2つになります。
①<きっかけ>へのアプローチ
夕食後にお子さんが席を立ったときに、保護者としては、お皿洗いをしてほしい場面があったとします。その場面で、「お手伝いをする」という「してほしい行動」を増やす支援を行うときに、「ちょっと手伝って」という声かけをすることは、すぐに提示しやすいきっかけです(図3)。
同様に、「手洗いをする」という「してほしい行動」を増やす支援を行うときに、「手を洗っておいで」といった声かけをしたりすることも、きっかけを用いたアプローチとなります。
また、「手伝ってほしいときに、声かけとともに掃除機を渡す」など声かけと具体的な物を一緒に提示する方法も、きっかけにアプローチする具体的な方法といえるでしょう。
②<結果>へのアプローチ【強化】
行動の「結果」として使用する「いいこと」のことを「強化子(きょうかし)」といいます。ほめられたり、ごほうびがもらえたり、楽しい経験ができたりすることが、強化子になる可能性があります。何が強化子になるかはお子さんによってさまざまなので、見極めていくことが大切です。
行動の後に強化子が得られると、その行動をする回数が増えます。強化子によって行動の回数が増える現象を「強化」といいます。
実際にしてほしい、望ましい行動が確認できたら、「ありがとう」、「上手にできたね」といった、ほめる声かけをすることが、行動の「結果」に「いいこと」を提示することの具体的方法になります。たとえば、お子さんが歯磨きをしたときに、「上手にできたね」と声をかけたり、「シールを貼ろう」とシールを渡したりすることが例として挙げられます(図4)。
【強化子のバリエーション】
強化子には、さまざまな種類があります。例として、
・ほめられる
・ハイタッチ
・シールをもらえる
・好きな活動ができる
・花丸を描いてもらえる
・抱っこしてもらえる
・頭をなでてもらえる
などが挙げられます。
大切なのは、「お子さんにとって」強化子になっているかどうかです。たとえば、同じ「シールをもらえる」という強化子でも、新幹線が好きなお子さんの場合、新幹線のシールがもらえることが強化子になったとしても、星のシールがもらえることは強化子にならないことがあると考えられます。強化子を提示した後に、「望ましい行動が増えたか」に注目することで、お子さんにとって強化子になっているかを確認することができます。
望ましくない行動を減らす方法と家庭での活用例
子どものしてほしくない行動を減らしたいときは、
①行動の「きっかけ」をなくす
②行動の「結果」に「いいこと」をなくす(=弱化)
③より望ましい行動を身につける
の3つになります。
①<きっかけ>へのアプローチ
「お菓子の取り合いが起こらないよう、同じお菓子を複数用意しておく」「ケンカにならないよう、別の部屋で遊ばせる」などの対応が、してほしくない行動のきっかけをなくす、具体的な手続きです(図5)。
②<結果>へのアプローチ【弱化】
してほしい行動を増やすときに「いいこと」を提示するのに対して、してほしくない行動の結果として得ていた「いいこと」をなくして、行動が起こる回数を減らすことを「弱化」といいます。
お母さんがお菓子を持っていて、「お母さんを叩いてお菓子を取ろうとする」などの行動が見られたときに、お菓子を渡さないというのが結果への対応例になります。そのような対応により、お菓子が手に入らないという結果が得られます(図6)。同じような状況になったときに、お菓子を渡さないという対応を繰り返すことで、叩くという行動が減っていくと考えられます。
③消去と消去バースト
してほしくない行動の結果として得ていた「いいこと」をなくして行動が起こる回数を減らしていく【弱化】を繰り返すことで、最終的にしてほしくない行動を無くすことを【消去】といいます。
先ほどの図6でご紹介した、お母さんがお菓子を持っていて、お母さんを叩いてお菓子を取ろうする場面をテーマに、消去についてみていきましょう。「お菓子を渡さない」という対応をした後も、また同じように叩いてお菓子を取ろうとすることがあるかもしれません。そのような状況のときに、「お菓子を渡す」という対応をしてしまうと、再び「叩いてお菓子を取ろうとする」という行動が【強化】されてしまいます。そのため、同じような状況が起きたときも、「お菓子を渡さない」という対応を繰り返していくことで、「叩いてお菓子を取ろうとする」という行動が【消去】されると考えられます。
この消去をしていく過程で、一時的に望ましくない行動が増えることがあります。先ほどのお菓子を叩いて取ろうとする例でも、お菓子を渡さないという対応をすると、お菓子を何とかして取ろうと、お母さんを何度も叩いたり、より強く叩いたりすることがあります(図7)。このように、一時的に望ましくない行動が増えてしまうことを【消去バースト】といいます。お菓子を引っ張って取ろうとする行動が増えたときに、お菓子を渡すという対応を取ってしまうと、お菓子を引っ張って取ろうとする行動が【強化】され、増えてしまいます。そのため、「お菓子を渡さない」という対応を継続することが必要です。
しかし、この弱化や消去の対応は、なかなか行動が減ったり、なくなったりしづらいこともあります。また、弱化をする側、される側にとっても負担のかかる対応であり、継続した対応が難しいこともあるかもしれません。そのため、発達支援や療育では、次にご紹介する「より望ましい行動」を獲得するアプローチを行います。
④より望ましい行動を身につけるアプローチ
先ほどの【弱化】のような、「いいこと」をなくす対応よりも、「貸して」「終わったらやらせて」といった、より良い行動を身につけさせることに重きを置いた支援を行うことが推奨されます。
たとえば、先ほどの場面で、お母さんを叩いてお菓子を取ろうとするのではなく、「ちょうだい」と言えるようになることを目指した支援を行うことで、お子さんの「より望ましい行動」を増やすことができます(図8)。
「より望ましい行動」は、新しく習得を目指すのではなく、お子さんが既にできていること、できそうなことから段階を踏んでいけるとよいでしょう。たとえば、「ちょうだい」と直接伝えることがまだ難しい場合は、「トントンってお母さんのことをタッチしてね」など、できそうなことから始めてみましょう。
発達支援・療育の基本方針
発達支援・療育では、
①行動の<きっかけ>を提示する・なくす
②行動の<結果>に「いいこと」を提示する(=強化)
③より望ましい行動を身につけることを目指す
の3つが基本方針となります。このようなアプローチをお子さん一人ひとりに合わせた形で行い、お子さんの望ましい行動を増やしていくことを通して、日常生活の過ごしやすさを促進させていくことが発達支援や療育のねらいです。
ABA(応用行動分析学)を実践するために
ABA(応用行動分析学)を用いた支援を実践しやすくするために、合わせて活用できるとよい手法や考え方があります。
【構造化】
構造化とは、日常生活のさまざまなことを、わかりやすく整理整頓することを指します。構造化には、「時間の構造化」、「空間の構造化」、「手順の構造化」などがあります。
①時間の構造化
時間の構造化とは、「いつ、何をするのか」を明確にすることです。たとえば、「3時におやつを食べる」「5時に宿題をする」などと決めることがあてはまります。
②空間の構造化
空間の構造化とは、「どの空間が何をする場所なのか」「どこに何があるのか」などを明確にすることです。「リビングはテレビを見る場所」「部屋の机は勉強をする場所」などと決めておくことがあてはまります。
③手順の構造化
手順の構造化とは、手順を区切ることで「何をするのか」を明確にすることです。たとえば、「朝の準備をする」という手続きを構造化すると、「7時に起きる→顔を洗う→歯磨きをする→ご飯を食べる→7時40分に学校に行く」などと細かく区切ることができます。
構造化については、こちらの記事でも詳しくご紹介しておりますので、ご参照ください(https://studiosora.jp/column/1867/)。
【ほめる】
先ほど、「ほめる」ことが強化子になり、子どもの望ましい行動を増やすことに繋がるとご紹介しました。効果的にほめるポイントがいくつかありますので、ご紹介します。
①すぐほめる
お子さんの望ましい行動が起こった直後、60秒以内にほめることがポイントです。お子さんの行動からほめるまでの時間があいてしまうと、お子さんは何をほめられたのかがわからず、せっかくの望ましい行動が強化されない可能性があります。
②具体的にほめる
「すごいね」「できたね」などと短い言葉でほめるだけではなく、ある程度年齢が高くなるにつれて、「何がすごいのか」を具体的に伝えることも効果的です。
③過程をほめる
できたことに対し、結果をほめることは大切です。一方で、目標とした行動がすぐにはできなかったり、失敗してしまったりすることもあるかもしれません。そのようなときは、結果だけにとらわれず、チャレンジした気持ちや、取り組んだ過程の中でできたことに目を向けてほめることが重要です。
その他のほめるポイントについては、こちらの記事をご参照ください(https://studiosora.jp/column/1156/)
【プロンプト】
朝、学校に出発する前に、「給食袋は入れた?」と声をかけたり、着替えのときに「ここに足を入れるよ」と着替え方を教えたりしたことのある方もいらっしゃるのではないでしょうか。このようなサポートを、発達支援・療育や教育の現場では、「プロンプト」といいます。プロンプトには、「身体的プロンプト」「言語的プロンプト」「視覚的プロンプト」などの種類があります。
①身体的プロンプト
身体的プロンプトとは、手を添えて行動を促したり、正しい身体の使い方をガイドしたりする方法のことです。
②言語的プロンプト
言語的プロンプトとは、言葉での声かけや指示によって行動を促したり、正しいやり方のヒントを出したりする方法のことを指します。
③視覚的プロンプト
視覚的プロンプトとは、目で見てわかるヒントを出して、場所を教えたり、手順を示したりする方法のことです。道路標識や家電の説明書、静かにしてほしいときに口の前で人差し指を立てるジェスチャーも視覚的プロンプトの仲間です。
プロンプトについてより詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください(https://studiosora.jp/column/1615/)。
【スモールステップ】
スモールステップとは、目標を段階ごとに細かく分け、比較的簡単な要素からチャレンジし、一つずつ達成していくことで、最終的に大きな目標にたどり着くことを目指す考え方です。たとえば、「ひらがな50音を書くことができる」という目標を設定したときに、まずは画数の少ない文字から練習していき、徐々に画数の多い文字にも挑戦していくという方法が例として挙げられます。
スモールステップについては、こちらの記事もご参照ください(https://studiosora.jp/column/1664/)。
ABA(応用行動分析学)による支援を受けられる場所
ABAを用いた支援を実施している施設は、児童発達支援事業所や放課後等デイサービス以外にも、医療機関や教育機関、心理支援を提供している機関、塾、発達支援団体など、さまざまな場所があります。どのような専門家が実施しているのか、どのような内容なのかは、施設や団体によって異なるため、各機関のホームページをご参照ください。
また、保護者の方を対象に、ABAに基づいたお子さんとのかかわり方に関するセミナーやペアレント・トレーニングを開催している機関もあります。
スタジオそらでも、ABAに基づいた発達支援・療育の提供を行っております。さらに、チャイルドラボや書籍でABAに基づく考え方について情報発信を行っておりますので、ぜひご覧ください。
<引用・参考文献>
スタジオそら/発達障害療育研究所(2023) スタジオそら式 おうち療育メソッド1 行動編 主婦の友社.
スタジオそら/発達障害療育研究所(2024) スタジオそら式 おうち療育メソッド2 構造化編 主婦の友社.
スタジオそら/発達障害療育研究所(2025) できた!がふえる 運動が好きになる! スタジオそら式 おうちでできる マット・鉄棒・とび箱 河出書房新社.
田中康雄(監修)(2019)イラスト図解 発達障害の子どもの心と行動がわかる本 西東社.






