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特集
行動分析や療育で使用されるプロンプトについて解説

教育や療育現場で用いられるプロンプトとは?種類や出し方、プロンプトフェイディングについて紹介します。

2020.10.12

プロンプトとは

 「プロンプト(prompt)」という言葉は、「~を刺激する」、「駆り立てる」、「鼓舞する」、「促す」、「引き起こす」等の意味をもつ英語です。パソコンが得意な方は、「コンピュータがユーザに対してコマンド入力を促す記号」として馴染みがある言葉かもしれません。

心理学、特に応用行動分析(ABA:ABAについてのコラムはこちら)では、「人(特に子ども)の行動を促すきっかけとなる刺激」という意味として用いられています。「子どもから期待する反応を引き出すための手助け」と理解していただいても良いでしょう。

 

 プロンプトは、子どもが対人関係上や生活上の新しいスキル(たとえば「あいさつ」や「身支度」等)を身につけようとしていたり、身につけた直後だったりして、そのスキルを遂行することが確実ではないときに用いられます。

プロンプトを用いる一番のメリットは、「子どもに成功体験を積ませやすい」ということです。プロンプトには、さまざまな種類があります。また手助けの度合いも、たくさん助けてもらえるものからちょっとだけ助けてもらえるものまで、さまざまです。いろいろなプロンプトを駆使することで、子どもが正解にたどり着きやすくなり、成功体験や達成感が得られやすくなります。このような方法は、「エラーレスラーニング」と呼ばれ、子どもが間違いや失敗を経験することを少なくすることで、自尊心や自己肯定感を高めることにもつながると期待できます。

 

プロンプトの種類と使い方

・身体的プロンプト

 身体的プロンプトとは、身体に直接触れることによって行動を促したり、正しい身体の使い方をガイドしたりする方法です。まさに「手取り足取り」教える方法が身体的プロンプトであり、スポーツ等の技術指導等でも用いられる場面は多いでしょう。ボールの投げ方、バットの握り方やスイングの仕方、身体の向き等を教える際に、身体的プロンプトが用いられます。

また、療育場面や家庭生活でも、身体的プロンプトは頻繁に用いられているはずです。たとえば、クレヨンで絵を描くとき等に、子どもがクレヨンを握っている手を、上から握って一緒に絵を描くことで、クレヨンを使うときの腕や手首の動かし方を教えることができます。あるいは、手洗いをする際に、子どもの両手首を一緒に持って、こすり合わせるように動かすことで、手洗いの仕方を教えることができるでしょう。また、子どもの注意を引くために、肩を叩く等の方法も、身体的プロンプトに含まれます。

 

・言語的プロンプト

 言語的プロンプトとは、言葉での声掛けや指示によって、行動を促したり、正しいやり方のヒントを出したりする方法です。日常的に、非常に多く用いられる方法といえるでしょう。

たとえば、「ありがとう」を子どもに言わせたいときに、「なんていうんだっけ?」という促しは、比較的手助けの度合いが少ないプロンプトといえます。「ありが?」までいうことで、子どもに「ありがとうをいうんだ!」と気づかせることもできますし、「ありがとうって、一緒に言おうね。せーの、ありがとう」というようなやり方が、手助けの度合いの多い方法といえるでしょう。

その他にも、「手伝って~」という声掛けも言語的プロンプトの1つですが、「洗濯物干すの手伝って~」の方が、より具体的で子どもも何をしたらいいのかわかりやすい、言語的プロンプトといえます。

 

・視覚的プロンプト

 視覚的プロンプトは、目で見てわかるプロンプトです。視覚的プロンプトも、標識や絵文字等、日常生活の中でも広く用いられている方法といえるでしょう。あるいは、お手本を示すような方法も、視覚的プロンプトに含まれます。たとえば、「ここに立っていてほしい」ということを伝えるときに、身体的プロンプトを用いてその場所に連れていったり、言語的プロンプトを用いて、「ここに立ってて」と言ったりすることも有効ですが、スタートラインのようなイメージで、実際にその場所に線を引くことで、目で見て「ここに立てばいいんだ」と気づかせることもできるでしょう。「指差し」という視覚的プロンプトと併用することで、意図も伝わりやすくなるかもしれません。

 

「自律」を促す「プロンプトフェイディング」

 このように、プロンプトは、子どもに行動を促す際には非常に有効であり、さまざまな形でプロンプトが提示され、子どもの行動を引き起こしています。

ただし、いつまでもプロンプトがないと行動できない、という状態は望ましくありません。子どもが、自分で何をするべきか気づいて、自分で行動を選択するよう、支援することが求められます。その方法がプロンプトフェイディングと呼ばれるもので、プロンプトをフェイド(fade=「消えていく、弱まる」)、すなわち、プロンプトを徐々に弱めて、消していく手続きがあります。

たとえば、「ありがとう」を言わせたいときに、最初は「ありがとうっていうよ」と、すべて伝えていたものを、「あり?」や「あ?」でとどめておいて、子どもが気づくのを待つ方法もあります。あるいは、フォークの使い方を身につけさせたいときに、食べ物を刺し、口元に持っていくところまでは手首を持ってガイドするという身体的プロンプトを用いて、口に入れるちょっと手前で手を離す、というような方法も、プロンプトフェイディングの例になります。これによって、徐々に手助けを減らし、子どもが自分でできるように促していきます。

 

プロンプトをうまく使うポイント

 プロンプトをうまく使うためには、子どもの状態にあった種類のプロンプトを選択し、子どもの状態に合わせた手助けの度合いを調節していくことが必要です。

プロンプトの度合いが低すぎると失敗してしまう可能性が高まりますし、プロンプトの度合いが高すぎると、「そんなの自分でできるよ!」と子どもの反発を受けたり、子どもがなんでも「手伝って」と、依存するようになったりしてしまう可能性があります。どの程度の手助けで、子どもの望ましい行動が引き出せるか、何度か実際に試しながら、調節していきましょう。

そして、子どもが行動することができた場合には、たとえたくさんのプロンプトのおかげでできたとしても、しっかりとほめ、またチャレンジしようと思えるよう、モチベーションを高めるような声掛けをしましょう。

 プロンプトの具体的な方法は、無数にありますので、お子さんに合った方法を、楽しみながら探してみてください。「この方法、うちの子に合うのかも」と気づいたら、ぜひ、ご家族や学校、支援機関と共有することで、お子さんに対する支援もスムーズになるかもしれません。

 

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小関俊祐/発達障害療育研究所アドバイザー

桜美林大学心理・教育学系准教授。 日本認知・行動療法学会公認心理師対策委員及び倫理委員、一般社団法人公認心理師の会運営委員及び教育・特別支援部会長、日本ストレスマネジメント学会常任理事・事務局長を務める。 2019年より発達障害療育研究所・スタジオそら顧問として活動。

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