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特集

ASD(自閉症,自閉スペクトラム症)の特性があるお子さんへの支援方法とは?特徴や、現れやすい問題行動についても解説。

2021.11.08
  • ASD(自閉症,自閉スペクトラム症)の特徴
  • ASD(自閉症,自閉スペクトラム症)の特性で問題行動ととられやすい行動
  • ASD(自閉症,自閉スペクトラム症)のお子さんに対する支援方法
  • 大事な指示は直接的な表現で伝える
  • 強いこだわりに対しては予告と調整で事前にコントロールする
  • 「こうすればいいんだ」をたくさん身につける
  • まとめ

(ASDについて医学的側面から解説しているこちらもあわせてご参照ください。)

 

ASD(自閉症,自閉スペクトラム症)の特徴

 ASD(自閉症,自閉スペクトラム症)は、発達障害の1つであり、対人関係の困難さ(相手の言葉の意図を正しく理解できない、相手に伝わりやすい表現を用いることが困難など)や強いこだわり(ある特定の、狭い範囲に対して限定的に強い興味を示す、感覚に対する過敏性や鈍感性など)といった特性があります。

(感覚の過敏性、鈍感性について詳しくはこちらをご参照ください)

 

 ASDはこれまで、自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー症候群など、いろいろな名称で呼ばれていました。それに対して、2013年にアメリカ精神医学会の診断基準の改訂以降、自閉スペクトラム症(ASD)としてまとめて表現されるようになっています。ASDには知的障害やADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)などが併存することが知られていますが、言い換えれば、ASDであるからといって、知的な遅れが認められるとは限りません。したがって、学力の遅れを伴わないASDの方も少なくなく、誰もが知る天才発明家や芸術家の中にはASDの診断がつく可能性がある方もいると考えられています。

 

対人関係の困難さと強いこだわりの2つがASDの主な特徴ですが、ASDのお子さんによって、どのような場面で対人関係の困難さが生じるのか、あるいはどのようなこだわりがあるのかは異なることが多いです。また、これらの特徴が必ずしも問題行動と結びつくとは限りません。ASDの特徴と、お子さんを取り巻く周囲の状況との間で、問題行動として認識されうる場合がある、ということが支援を考えるうえでの重要なポイントです。

 

ASD(自閉症,自閉スペクトラム症)の特性で問題行動ととられやすい行動

 ASDの特徴の1つである対人関係の困難さに関連して、ASDのお子さんの中には、言語やコミュニケーションの障害が認められることがあります。言葉の遅れに加えて、エコラリア(オウム返し)や、言葉の意図の理解の困難さ(禁止の意図で「マスクを外しての会話はご遠慮ください」という案内に対し、「遠慮しなくてもいいよね」とマスクを外してしまう、など)、ことわざや比喩表現に対する理解の困難さ(「忙しくて猫の手も借りたいわ」に対し、「うちで猫飼うの?」など)などの特徴が認められることがあります。いわゆる「空気が読めない」と表現されるような、場にそぐわない言動をとってしまうことで、周囲の人から嫌がられることも起こりえます。

 

また、乳幼児の頃から視線を合わせることが苦手であったり、他の人の身振りを真似することが困難であったりするなどの特性に起因して、社会性の低さも指摘されることが多いです。

 

このような特性から、他者からからかわれたり、時にはいじめに発展したりすることもあるでしょう。逆に、「ふざけている」という評価を受けて、叱られたり嫌われたりしてしまうことも起こりえます。

 

 また、こだわりの強さは行動や気持ちを切り替えることの苦手さや、ASDのお子さん本人の不安の高さに繋がる可能性もあります。特定の活動に没頭してしまうことで、その活動の時間が終わったり、他の場所に移動することになっても活動をやめることができず、かんしゃくを起こしたり、叱られてしまったりすることにも繋がるでしょう。かんしゃくに伴って怒りや落ち込み、不安などの気持ちが生じると、いつまでも嫌だったことを考え続けてしまい、なかなか気持ちを切り替えて、楽しい活動に取り組むこともできにくくなる場合があります。

 

見通しのつきにくい状況においては、一般の方以上に不安を感じやすい傾向にあります。「いつまでこの活動を続けてもいいのだろう」、と考えつづけて、本来は楽しいはずの活動に対しても十分に楽しみを感じられなかったり、急に終わりを告げられたり、満足いく前に片付けられてしまって強いストレスを感じてしまったりすることもあるでしょう。

 

ASD(自閉症,自閉スペクトラム症)のお子さんに対する支援方法

 ここまで、ASDの特徴に関する内容、およびそれに関連して生じうる問題について整理しました。特に、お子さんを取り巻く周囲の状況との間で齟齬が生じてしまう場合に、問題行動として認識されやすいということ、さらにこの点を踏まえることが支援を考える上での重要なポイントであることを確認しました。

 

このポイントを踏まえつつ、対人関係の困難さ、特に言語やコミュニケーションに焦点を当ててみると、①大事な指示は直接的な表現で伝える、②強いこだわりに対しては予告と調整で事前にコントロールする、③「こうすればいいんだ」をたくさん身につける、の3つが支援方法の中核となると考えられます。

 

①大事な指示は直接的な表現で伝える

 ASDの特徴として、コミュニケーションの苦手さがありますので、お子さんに理解できるように、こちらの意図が正しく伝わるように、指示を出す必要があります。たとえば、「なるべく散らかさないでね」ではなく、「新しいおもちゃを出すときはこれまで遊んでいたおもちゃを片付けてから出すんだよ」や、「勉強頑張りなさい」ではなく、「12時までにこの算数の問題5問解いてみよう」のように、具体的な指示を出すよう心がけましょう。こちらの意図通りに活動することができたら、しっかりとほめることも大切です。

 

②強いこだわりに対しては予告と調整で事前にコントロールする

 人は誰しも好きなもの、好きなことがありますし、好きなことをもっと楽しみたいという欲求があるので、「こだわり」自体が悪いものではありません。むしろ、何にも興味を持たないで過ごすよりも、好きなもの、あるいはその活動をすることで安心できるものがあるということは、お子さんにとって良いことであると認識すると良いでしょう。したがって、状況が許すのであれば、こだわりを無理に止めさせる、こだわりを無くさせるということを目標にする必要はないかもしれません。

 

 ただし、「こだわり」によって、約束の時間に間に合わない、不慮の状況下で他の方法を選択しなければならない(いつも通っていた道が通行禁止など)というような場合には、適切に対応することが求められます。ただ、時間が迫っている中で、こだわりの阻害によってお子さんがかんしゃくを起こしていると、支援者である大人にも焦りが生じて、口調が強くなってしまうなどといったことも起こりえます。そのような場合には、少し落ち着いて、目的の優先順位を整理してみると良いでしょう。時間通りに行動すること、お子さんが落ち着くこと、家族みんなが楽しく過ごすことなど複数の大事な目標を一度に解決しようとしても、なかなかうまく行かない場合が多くなります。まずは一息入れつつ、「うまく行けば巻き返して時間に間に合うかもしれないし、子どもが落ち着くことを優先しよう。そうしたら、少し経てばみんなが楽しく過ごせるはず!」などのように、目的を1つひとつ切り分けてあげると良いかもしれません。

 

 もちろん、すべての目的をしっかりと達成させたい思いもあるでしょう。そのためには、こだわりの問題が「起きてから」ではなく、「起きる前」の、事前の予告と調整を心がけましょう。「あと10分で片付けするよ」「あと5分だよ」「さあ、あと10秒だよ。じゅ~う、きゅ~う…」というに、事前に終わりを認識させることが良いでしょう。時間の認識が苦手なお子さんの場合には、回数での指示を出してあげることもよいでしょう。時間にしても回数にしても、急かすような「10秒前!9、8、…」といった口調ではなく、ゆったりと「じゅ~う、きゅ~う、は~ち、…」のような口調で伝えてあげることも大事です。

 

また、見通しがもてるように、絵カードなどを用いながらスケジュールを提示したり、場所を変えて切り替えを促したりすることも有効な場合があります。このような予告と調整に関する、他の具体的な方法については、こちらにて紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

 

③「こうすればいいんだ」をたくさん身につける

 場面にそぐわない言動など、わざとふざけているように思われがちですが、本人は何が悪いのか分かっていない場合も少なくありません。そのため、「そんなこと言ったらダメ!」と叱っても、「じゃあどうしたらいいの?」と、お子さんは分かっていない可能性があります。

 

ダメなことを伝えることもときには必要ですが、それ以上に「どうしたらいいのか」ということを具体的に教えていくことも心がけましょう。そして、「こうしたらいいかな?それともこっちの方がいいかな?」など、ある程度行動の選択肢を検討できるようになったら、適切な方法を選ぶことができるよう支援をしていきます。おおよそ、小学校中学年くらいまでには選択肢を身につける時期、小学校高学年くらいからは適切に選択する時期と位置づけられると思います。

 

まとめ

 ASDの特徴と、その支援方法について紹介しました。ASDに限らず、障害特性といわれるものは、一度や二度の支援では効果が得にくいことが多いです。長い期間をかけて、徐々に対処能力を身につけさせるという視点で、焦らずに関わっていくことが重要となります。そのため、お子さん自身の努力に対してももちろんですが、支援者自身に対しても適度にごほうびをあげながら、チャレンジしようとしたこと自体を称賛していきましょう。

 

小関俊祐/発達障害療育研究所アドバイザー

桜美林大学心理・教育学系准教授。 日本認知・行動療法学会公認心理師対策委員及び倫理委員、一般社団法人公認心理師の会運営委員及び教育・特別支援部会長、日本ストレスマネジメント学会常任理事・事務局長を務める。 2019年より発達障害療育研究所・スタジオそら顧問として活動。

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