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小学校の勉強についていけない学習障害児

LD(学習障害,限局性学習症)の特性があるお子さんへの支援方法とは?特徴や、現れやすい問題行動についても解説。

2022.01.10
  • LD(学習障害)の特徴
  • LD(学習障害)の症状と生じやすい課題
  • ディスレクシア(読字障害)の症状と生じやすい課題
  • ディスグラフィア(書字表出障害)の症状と生じやすい課題
  • ディスカリキュリア(算数障害)の症状と生じやすい課題
  • LD(学習障害)のお子さんに対する支援方法
  • ディスレクシア(読字障害)のお子さんに対する支援方法
  • ディスグラフィア(書字表出障害)のお子さんに対する支援方法
  • ディスカリキュリア(算数障害)のお子さんに対する支援方法
  • まとめ

(LDについて症状、支援方法、二次障害など網羅的に解説しているこちらもあわせてご参照ください。)

 

LD(学習障害)の特徴

 LDは、読む、書く、計算する、推論するなどの特定の分野に苦手さを示す、発達障害のひとつです。全般的に能力の落ち込みの認められる知的障害とは異なり、おおよその能力には顕著な遅れは見られないものの、特定の分野のみに著しい苦手さを示す点が、LDの特徴です。そのため、近年では、苦手さの部分が「限局的(限定的)」であることから、限局性学習症(SLD)とも表記されるようになりました。

 

LDのお子さんのタイプはさまざまで、読むことだけが苦手なお子さん、書くことだけが苦手なお子さん、読むことの苦手さに起因して算数の文章問題が苦手なお子さんなど、特徴が多岐に渡ります。そのため、支援方針も、お子さん1人ひとりの特徴にあわせた対応が求められます。また、ADHD(注意欠如・多動症)やASD(自閉スペクトラム症)などを伴う場合もあるため、個別の配慮や学習支援も必要であり、家庭と学校、あるいは医療機関との密な連携が必要になります。

 

LDは、文字や計算に触れる機会の増える小学校入学後に症状が確認される場合が多いようです。未就学の段階では、文字が書けなかったり読めなかったりしても、「まだ早いのかな」と認識しがちです。しかし、小学校入学後も、字が書けない、読めないなどの問題に直面することが増えると、お子さん自身も、「みんなができているのに自分だけできない」と、戸惑いや不安を感じるようになる可能性があります。LDのあるお子さんは、どうしても成績が低くなってしまう傾向にあるため、「頑張っても自分はできない。努力しても意味がない」と、抑うつや怒りの感情が出てきてしまうこともあります。他の得意な能力に気づいたり、趣味や友だち関係など楽しめるものを見つけたりすることができないと、不登校やひきこもりの問題に繋がってしまう可能性もあるので注意が必要です。

 

LD(学習障害)の症状と生じやすい課題

 LDの特性は、大きく「ディスレクシア(読字障害)」、「ディスグラフィア(書字表出障害)」、「ディスカリキュリア(算数障害)」として分類されます。

 

  • ディスレクシア(読字障害)の症状と生じやすい課題

 ディスレクシア(読字障害)は、字を読むことの障害です。文字の読み方や、字の形を認識することに対して困難を抱くことが特徴です。そのため、国語に限らず、授業全般においてつまずきが生じ、苦手さを感じてしまいがちです。

 

文章を読んでも意味が理解しにくいために、国語の読解だけではなく、算数の文章問題や、その他の教科でも教科書を読んでその意味を理解することに時間がかかったり、理解できなかったりしてしまうことがあります。その他、文節ごとに区切って読むなど、たどたどしい読み方になるので、国語の音読の課題などでもうまく読めなかったり、時間がかかってしまったりすることが考えられます。

(ディスレクシアについてはこちらもあわせてご参照ください。)

 

  • ディスグラフィア(書字表出障害)の症状と生じやすい課題

 ディスグラフィア(書字表出障害)は、字を書くことの障害です。文字の形を適切に認識することが困難で、視覚から得る情報処理に困難を抱くことが特徴です。字を書く課題である、漢字の書き取りや作文を苦手とする可能性は高いでしょう。その他、漢字の部首を間違ったり、「わ」と「は」、「お」と「を」などの同じ音を持つ字の使用に誤りが多かったり、文章のルールが十分に理解できておらず、主語が抜けたり、句読点を書き忘れたり、「てにをは」の使用に誤りがあったりすることが考えられます。

 

  • ディスカリキュリア(算数障害)の症状と生じやすい課題

 ディスカリキュリア(算数障害)は、算数や計算に関する障害です。「1、2、3…」と順番に数えることはできても、「3と4、どちらが多い?」や「5と2あわせていくつ?」などの数の概念を理解することが苦手です。概念理解が困難なため、九九自体は暗記できても、計算に使えない、ということも起こりえます。

 

また、その場にないものを推論することが困難なため、文章問題によく用いられる「そらくんがビスケットを3個持っていました」などの状況を想像しながら、さらに「お母さんから2個もらいました」などの状況の変化に対応することはさらに理解が困難となる可能性があります。

 

その他、聞いたり話したりすることも苦手なため、コミュニケーションに困難さを感じることもあります。1対1では話ができても、休み時間のいろいろなところで会話がなされている状況下で、特定の会話に着目することができなかったり、ディスカッションのようにいくつかの話を整理したりまとめたりすることに対応できない場合もあります。また、頭で理解したことについて身体を動かして表出することが苦手なために、体育や、図画工作、家庭科、書道などでつまずくお子さんもいらっしゃいます。臨機応変に動く、ということも苦手な場合が多いでしょう。

 

LD(学習障害)のお子さんに対する支援方法

 LDの抱える課題として、「努力してもうまくできない」と感じてしまうという側面があります。うまく書けない、読めない、計算できないとなると、どうしても「練習が足りないのではないか」「できるようになるまでやりなさい」といった関わりに繋がりやすいのですが、それがかえって、学習に対する苦手意識や、時には保護者や先生といった支援者に対する嫌悪感に繋がってしまうこともあります。特に、漢字や計算はドリル形式で、何度も何度も繰り返し書くことが基本的な学習方法になっていることが多いので、LDのお子さんに対しては「できるまでやらせる」にならないように、注意しましょう。

 

学習上の支援としては、そもそも苦手なことに取り組んでいるわけですので、「たくさん」「何度も」「繰り返し」を避けるように心がけ、「集中力の持続する少しの量を」「1~2回」「丁寧に」取り組み、お子さんが「できた!」と達成感や満足感を味わうことができることが優先されます。勉強に対する苦手意識が低くなれば、次第に勉強に取り組む時間や回数も増え、結果的に学習効果が高まることをねらいとする考え方です。このような観点を基本としながら、お子さんの特徴にあわせて支援を展開していくことが必要です。

 

  • ディスレクシア(読字障害)のお子さんに対する支援方法

 読み飛ばしをしてしまうディスレクシア(読字障害)のお子さんには、指で読んでいるところをなぞったり、鉛筆や定規を当ててすでに読んだ行を隠したり、また厚紙などを切って1行だけ見えるようなシートを使ったりすると良いかもしれません。また、プリントやタブレットの文字などには、分かりにくいフォントが使用されている場合があります。おすすめは「UD(ユニバーサルデザイン)フォント」といわれる、文字の形が分かりやすかったり、書いた文字と同じような書体で書かれていたりして多くの人が読みやすいように作られたフォントです。(UDフォントについてはこちらもあわせてご参照ください。)

 

  • ディスグラフィア(書字表出障害)のお子さんに対する支援方法

 ディスグラフィア(書字表出障害)のお子さんには、大きめのマス目のノートや、マスのなかに十字の補助線のあるものを用いると良いでしょう。小学校の2年生くらいになると、マス目の大きいものを使いたがらないお子さんもいらっしゃると思います。その際には、授業で使用するノートと家で宿題など練習する用のノートを分けてもいいかもしれません。また、学校のプリントなども、マス目ではなく記入する列や枠だけある場合もあるので、鉛筆などで薄くマスを作ってあげると記入しやすくなるかもしれません。ひらがな、カタカナ、漢字の練習も、まずは発音してみて音として認識し、書くときも書き順なども意識させつつ、ゆっくり丁寧に書くことを心がけましょう。文字を見ながら意味を理解したり、その文字を用いる単語や文章も一緒に考えたりすることも良いでしょう。

 

また、将来的な就職などを見据え、早めにパソコン(Word)で文字を書くことに慣れることも選択肢の1つです。現在はまだ授業やテストなどで用いることは困難であると思われますが、家庭と学校、お子さん自身と相談しながら、方針を決めていくと良いでしょう。

 

  • ディスカリキュリア(算数障害)のお子さんに対する支援方法

 ディスカリキュリア(算数障害)のお子さんに対しては、まずは日常生活における数字に着目し、理解するところから始めることをおすすめします。一緒にお買い物に連れていって、「お菓子3個買っていいよ」や、「500円でお菓子買っていいよ」など、数字に触れ、数字を使う機会を増やしてみると良いでしょう。お小遣い帳などをつけてみることも有効です。また、状態に応じて、計算機を使用することも学校の先生と相談してみることも良いでしょう。

 

まとめ

 LDのお子さんの特徴と対応について紹介しました。対応については、あくまで一例ですので、お子さんの個々の特徴や、学校の先生、クラスメイトの受け入れ態勢も含めてさまざまな対応の選択肢から、より良いものを取捨選択していくような対応が良いでしょう。また、書字や計算などは、大人になるとパソコンやスマホで済ませてしまう部分も多くなります。成績には反映されにくい部分ですが、生きていくための力を養うという観点からは、機器の使用を検討することも有効だと思われます。

 

小関俊祐/発達障害療育研究所アドバイザー

桜美林大学心理・教育学系准教授。 日本認知・行動療法学会公認心理師対策委員及び倫理委員、一般社団法人公認心理師の会運営委員及び教育・特別支援部会長、日本ストレスマネジメント学会常任理事・事務局長を務める。 2019年より発達障害療育研究所・スタジオそら顧問として活動。

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